火星や金星を地球化しようというテラフォーミング計画があるけれど、まずいったいどこにそんな金があるのか、地球のように生物がすむにはまずは水と酸素が不可欠だ。なぜ地球にだけそれらが生まれたんだろう?
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地球には山ほどの酸素があり、シアノバクテリアのおかげであらゆる生物が繁栄しているが、それだけの量の酸素を火星や金星で生産させるのにいったいどれほどの年数がかかるだろう?不可能ではあるまいか?この先生に聞いてみよう。


どうして地球には、これほど多くの酸素があるのだろう

酒井 敏先生
人間・環境学研究科 教授

宇宙誕生から現在にいたるまでの百数十億年、宇宙や地球はいったいどのような歴史を歩んできたのだろう。「日常の生活とはまったく違う視点から地球を考えよう」とよびかける酒井敏教授。今回のテーマは、現在の私たちの生活に必要不可欠な「酸素」。その誕生には、太陽系のなかで唯一、液体の水をもつ惑星「地球」ならではの物語があった

太陽系の惑星

図1 太陽系の惑星

水星や金星、地球、火星は、岩石や金属などから構成される「地球型惑星」(図1)で、およそ四六億年前に形成されたといわれています。こまかい塵が集まり、あるていどの大きさまで固まったあと、塊どうし、あるいは隕石とはげしい衝突をくり返して、現在の大きさになりました。衝突で地表面が熱くなり溶けると、ぶつかった隕石にふくまれる化学成分が気体となり吐き出されます。それが地表の溶けたマグマと平衡状態となることで、水蒸気300気圧、二酸化炭素60気圧の原始大気がつくられました。

この原始大気は、現在の大気とはずいぶん違う。私たちの暮らす地上は一気圧の世界です。温度が同じだと仮定した場合、原始大気の密度は360倍ですから、相当に重たいと考えられます。仮に私たちが原始大気のなかで生きられたら、空を飛ぶことができるかも。(笑)水をかくように手を動かすと、たくさんの空気が動きますから、かなりの力となるはずです。そもそも密度が高いと浮力が生まれますから、体も軽い。(図2)

原始大気と現在の大気

図2 原始大気と現在の大気

ここまで想像すれば、原始大気がいまとは大きく異なるとわかりますね。数字をただ覚える勉強はやめにして、それがなにを意味するのか、すでに得ている知識と結びつけて、どれだけ世界を膨らませられるかがほんとうの学びです。

金星や火星とは、異なる進路を歩む地球

誕生したばかりの金星や火星にも、地球と同じくらいの気圧の原始大気があったと考えられます。しかし、現在の火星、地球、金星の大気をくらべると、気圧はもちろん、成分がずいぶん違います。(図3)火星と金星は二酸化炭素が主成分です。原始大気の大半を占めていた水(水蒸気)がなくなり、二酸化炭素がのこったと推測ができます。

現在の大気の成分

図3 現在の大気の成分

ところが、地球は同じ地球型惑星でありながら、二酸化炭素はごくごく微量。グラフにすると、目視できる線一本にもみたないのです。地球の主成分である窒素は、金星や火星にも存在しますが、窒素は化学変化を起こしにくい不活性な元素ですから、大気が発生した最初からあったと考えてもふしぎではありません。

問題は酸素です。なぜ、地球にはこれほど多くの酸素があるのでしょうか。宇宙空間に酸素の元素はたくさん存在していますが、そのほとんどがCO2やH2Oなど、いろいろな元素と化学結合した状態です。ほかの元素と化学結合しやすいので、O2の状態を保つことはむずかしいのです。にもかかわらず、いまの地球の大気中には酸素が二割もある。だれかが酸素をつくりつづけているからこそ、これだけの酸素が存在するのです。

「水」ほど特異な物質はない

原始大気が生まれたあと、それぞれの惑星で起こった変化を追いかけてみましょう。金星は地球よりも太陽に近く、温度が高いので、水蒸気は液体にならずに気体のまま大気中にとどまります。水は、太陽からの紫外線で分解され、水素と酸素になる。軽い水素は、金星の重力ではひきつけておくことができず、宇宙空間に放出される。のこった酸素は、地上のいろいろな物質と結合したと考えられます。

いっぽう、太陽から離れている火星には、かつては液体の水が存在したと考えられています。現在の火星には、地表面に水はありませんが、地下には凍った状態の水、極冠にはドライアイスも存在します。極では水よりも凝固点の低い二酸化炭素でさえ凍るほどに火星の気温は低いのです。

この火星と金星とのあいだに位置する地球の気温はその中間で、三つの惑星のなかで唯一、長期間にわたり水が液体で存在しつづけられる環境にありました。大気中の水蒸気が液体となり、海となって保持できたことが、地球がほかの惑星とは異なる進化をとげた大きな要因です。