『山海経』(センガイキョウ)・・・チベット方面の思える土地に犬封国(ケンポウコク)があって、その国の人はまるで犬のような姿をしている。
田中勝也『東アジア古伝承・・・』・・・ 中国江南域にあって、俗に槃瓠と呼ばれ今に至っているのがヤオ族であるが、彼らもまた犬祖伝説を持ち、犬の鳴き声を発するとともに、犬の耳型をした頭巾を着用した。
中国・海南島の黎(リ)族には「母子近親相姦伝説」と融合した「犬祖伝説」がある。犬の吠え声を発する風習もある。同時にヤオ族同様、人や物を背負う風習がある。背負うというのは槃瓠伝説の中にある「皇女を背負って山に入った」という部分に符合する。(田中勝也)
『魏書』・・・ 高車族は遠い昔、匈奴の王女が狼と結婚して産んだ子供の子孫である。
高車族とはトルコ系騎馬遊牧民の総称である。突厥、回コツ(糸偏に乞う)、丁零(テイレイ)などを指す。
高車族は狼の末裔なので好んで声を長く引いて歌を歌い、その声は狼の遠吠えに似ている。
『山海経』犬戎(けんじゅう)・・・「はるか遠い東北の地に山があり人が住んでいた。その名を犬戎といった。はじめ黄帝軒轅(けんえん・中国五帝の一人。東方勢力を現す怪物蚩尤・しゆうを討ち現在の内モンゴルに都を築いた。)苗龍を産んだ。苗龍は融吾を産んだ。融吾は弄明を産んだ。弄明は白犬を産んだ。白犬は雄雌二頭で、この二頭が交わって犬戎を産んだ」
同じく『山海経』・・・「崑崙という山の近くに犬封国または犬戎国という名の国があり、そのさまは犬のようである」崑崙は西の国であるから、先の東北の犬戎とは違う国、あるいは勘違い?なお、戎をナガ族とする意見もある。ナガ族の住む近くアッサムには顔を赤く染める風習がある。アッサム人は厳しい母系・女系社会を形成する。
犬戎の記録はやがて消えてゆくが、のちに唐代になって吐蕃として現れる。『唐書』突厥伝・・・「吐蕃は犬の種族だ」「吐蕃の祖先は犬である」「人に拝礼する時、両手を地につけ狗吠の声をあげ二度おじぎする」とある。
『唐書』吐蕃伝・・・「吐蕃人は顔を赤く塗るのを美とする」7世紀、吐蕃の王に嫁いだ唐の皇女はそれを嫌いやめさせたとある。
『封氏聞見記』・・・吐蕃に赴いた兼御史大夫・韋倫は御史・苟會(くかい・句には狗の意味がある)を同行させようとするが、知人に「なぜ吐蕃のような名前の者を連れて行くのか?吐蕃の犬タブーに触れてしまうではないか」と言われた。皇帝に知らせると皇帝はその部下の名前を「荀」(しゅん・タケノコ?)に改名させた。
『唐書』吐蕃伝・・・吐蕃王が死ぬと友であった臣下は進んで殉死した。この記事は隼人の殉死と同根であろうか?(雄略天皇紀)
ヤオ族の八姓族・・・ヤオ族は犬祖伝説は持たないが、犬祖観念は持っている。犬を尊重し、犬には収穫の初物が与えられる。八姓族には顕著に犬を大切にする習慣がある。日本の「八犬伝」と対応したようで
八は面白い。
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犬祖伝説が多いのは主に北方アジアと南方アジアのようである。なぜ南北に離れた地域で同じ伝承が生まれたのであろうか?
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