出典;『敦煌吐蕃文献撰』『新五代史』
吐蕃人の記録; 「七世紀初頭、突厥王が南シベリアに出兵、この時二人の使者が奥地に入り遭難し一人の女に出会う。女性とは突厥語で話ができ、二人の使者は女に連れられて彼女の部落へ行った。二人は気づかれないようにかくまわれていたが、やがて大犬の群れが帰ってきた。狩猟から帰った犬どもが人間の匂いに気づくと女は急に態度を変え、犬たちにぬかづくよう命令した。それで犬は二人に帰還の支度をしてやり、二人は無事故国に帰ることができた。
犬どもは始め、天から降った赤犬と黒犬から生まれてきた。二匹が天下った時、山に住む母オオカミと会い、これと結婚して暮らしていた。男子が産まれたがまだ一人前ではなかったので、突厥の部落から女子をさらってきた。二人の子供は男は犬、女は人間の姿をしていた。
こうして赤犬と黒犬それぞれの部落ができたが、家畜、家財、食物の管理はすべて女性の手にゆだねられた。
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これは今のチベット地方に住んでいた「吐蕃人」の書いた他国の伝説である。吐蕃人自身も犬祖伝承を持っている。
シベリア古民族・チャクチー族の伝承;一匹の犬が人間の娘をヨメにしたいと思った。最初の妻は気が荒く、親や兄弟を蹴飛ばした。犬は怒って妻を追い出した。次に気だての良い娘をさらってきた。
犬は娘に目をつぶって部屋に入るよう言った。娘がそうして部屋に入り目を開けると、白いトナカイの毛皮で作られたベッドがあり、ひとりの美貌の若者が立っている。それが犬だったのである。
一家のトナカイは大いに増え、一家は繁栄した。
ある日、ある娘が一家の家をのぞき見ると、人々はトナカイを生け贄にしながら、犬の遠吠えをしていた。
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同様の伝承はコリヤーク、カムチャダール、エスキモーの間にも全く似たものが残っていると田中勝也は書いている。
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