■『長野県考古学会誌』107号の「尖頭器石材の色」論攷
「次に尖頭器の石材の色に注目してみたい。
 色彩は、人類学者、心理学者、美術史学者など、他の研究分野の研究者にとっては重要な分野である。彼らの研究によれば、伝統社会では白と黒の二色が重要で、もう一色加えるとすれば赤だという。」
この直後に論攷は、民俗誌の研究に言及する。その例証を箇条書きにしてみよう。

●色彩は象徴的な意味がある
たとえば
1 黒が表す概念・・・男、東の方位→制御できる肯定的な超自然の力と結びつくもの
2 赤が表す概念・・・女、西の方位→危険で手に負えない超自然の力と結びつくもの

●尖頭器は狩猟具であるが、同時にシャーマンの儀礼具でもある
 儀礼に使う場合はその色彩の象徴的に示す意義が重要
 例証として神子柴(みこしば)遺跡出土の大型精巧品(白色)および中型普通品(黒色)
 前者は珪質凝灰岩頁石あるいは玉髄製、 後者は黒曜石製
 
●アフリカ諸民族の間でも同じような観念
 白はポジティブ、黒はネガティブなそれぞれ側面に結びつく
 これはさらに多くの社会で 1 白・・・男性  黒・・・女性 にそれぞれ結びつくことが多い。

●これらは常に二律背反する観念を裏腹に持っていることが多い
 たとえば赤=生命であると同時に死の色

●ンデンブ族社会でも、白対赤の二色対立=男対女を象徴する
 そして「影の第三者」として黒が存在する
 この三極構造の中で黒はときおり機能する

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この白、黒、赤の三極構造は多くの民族が持っている。そしてさらにその色が光る素材であることも重要だった。
アボリジニは特に石英や珪質岩などの光る石材を先祖霊からのパワーを含むと信じていた。

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■人類学者が考えた「人類の基本色」
進化の第一段階・・・白と黒の二色対立構造(単純世界)
進化の第二段階・・・そこに赤が入ってくる(三極構造・より複雑な表現へ)
第三段階~第四段階・・・緑から黄色、あるいはその逆。
第五段階・・・・・・・・・青
第六段階・・・・・・・・・茶
最終段階・・・・・・・・・紫、桃色、ダイダイ色の登場
ブレント・バーリン及びポール・ケイ『色彩基本語─その普遍性と進化─』アメリカ
結論・・・「世界のいかなる言語にもニから十一の色彩基本語が存在し、それらは七つの団塊を経て進化した」
基本的な色とは黒・白・赤・緑・黄・青・茶・灰・紫・橙・桃の11色である

「白黒赤の三極ができあがった時代からは、民俗誌が言う調査と同じ結果となる。つまり赤が加わることが大きく人類の心理、行動を複雑化してゆくきっかけ。
白と黒は光の明暗ですぎに感知した。それには純粋VS汚れ・生と死・聖と俗・男と女などが象徴される。
そこに加わった赤は、時には黒に代わり白と対立し、ときには白の代わりに黒と対立すという巴構造を構築するようになった。
マーシャル・サーリンズ「色彩と文化」1976

■赤が象徴するもの
中国の想像上の動物である「辟邪」は赤い色をしていたという。「辟邪(へきじゃ)」とは魔よけである。
つまり赤には魔よけ効果が期待された。
その他、赤=獄卒の服、豊穣、枯死、不毛、天使、処女、天子、悪魔、清廉、情欲、太陽、天、地獄、地下、穢れ
このようにどの世界でも赤、色彩には二律背反するイメージが持たされている。
ところがそのイメージを普段使うとき、そこにはまったく混乱が見られない。人類はその双方向性を自在に使い分けることが原始の頃からできてきた。

■民族学における色彩
●ンデンブ族の「イソマ儀礼」・・・女性の生殖機能を不調にする亡霊を祓う儀式で、白く若いメンドリと黒く成熟したオンドリを用意する。白=純潔・幸運・吉兆 黒=女性の死・神秘的不運・苦悩
「ウブワンワ儀式」・・・双子を産むと思われる女性や、すでに産んだ女性に、産後の生命力を与える儀式。
トウモロコシやガマの実の白酒と白い粘土を入れた男根形ヒョウタン、赤い粘土を入れた貝殻を使う。
要するに聖対魔の対決をおこない、聖が勝つわけである。これは日本にもある闘鶏、闘犬、闘牛に変化するギャンブルや祭りの原初的な儀礼であろう。

■緑と青の対立
梅竿忠夫の弟子である文化人類学者・福井勝義が調査したエチオピアのボディ族ででは色彩に関して8つの基本語が発見されたという。
バーリンとケイによれば6つ以上の色彩基本語が生じた段階の民族は、緑と青はかならず分化しているという。
また黄色は緑から生まれ、しかしながらその場合、青は生じてこず、青から生じた場合、その民族に緑という概念はないのだという。

これは日本が後者にあたる。
「あお」といえば青・緑・黄のすべてをかつて指していた。今でも信号機の色を「あか・あお・きいろ」と言うが、「あお」は「みどり」である。これは硫黄の黄色を古典文献が多く「あお」と書いていること符合する。日本の古代人は「みどり」という言葉を長く持たなかったのだ。随分あとになってようやく「みどりご」という言葉が出て来る。面白いのは「髪の毛の黒」を「カラスの濡れ羽色」と言い、それが輝くダークグリーンを指すことだ。

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■色彩考古学著者
いずれにせよ、歴史学、考古学が色彩に着目するようになったのは20世紀の終末(ついこのあいだ)になってからである。
考古学ではジョゼフ・ランバート、マーシャル・サーリンズ、古くはビクター・ターナーなどが色彩からのアメリカ考古学に影響した。英国では1999年ケンブリッジ考古雑誌がようやく着目、「視点:初期社会において色はどんな意味を持っていたか」「色は重要だったか:赤色のシンボリズム」「ヨーロッパ考古学における色の重要性」「赤白黒:古代エジプトの建築石材の色」「古代の布の色と着衣」「明るく輝く美しいもの:人類進化における色の役割と意味」などを発表。さらに2002年にはサザンプトン大学のアンドリュー・ジョーンズ、グラスゴー大学のゲイヴァン・マクレガ-が『過去に色彩を施す 考古学における色彩の重要性』を編集している。
日本では佐原真「万葉の色、縄紋の色」が縄文時代になると赤と黒の対比が強調されはじめ、弥生時代になるとこれが金属の輝く金色を加えていったと書いた。金色と赤色の組み合わせは、その後奈良時代になると仏具=死の色になって引き継がれていく。

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■シャーマンと顔料
かつてシャーマンの多くが女性であった。
原始社会では当初、男性が持つ武具である尖頭器などは、「おんなのにおいのする顔料」などは決して塗ることがなった。それが進化するにつれて「女性的行為」である「生命の誕生・維持・安寧」を祈願するために次第に着色されるようになった。最初は儀式用具だけ、それが実用品に及ぶこととなる。つまり死をより身近に感ずる機会の多かった戦闘員、狩猟者としての男性も、友の死を目前にし、女性の魔よけ、シャーマニズム、装飾へのあこがれを「無事」に帰還する願いに差し向けるようになり、結果的に女性シャーマンをリーダー乃至は最高位巫女、王の側近などに選ぶようになるわけである。

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一口メモ
■ボディ族の特殊な「牛の見分け能力」
ボディ族は家畜に深く関わってきた。そのために持っている牛のすべてに名前をつけるのだが、その名前は固有名詞はひとつとしてない。すべて「頭としりが黒い種牛」とか「頭と尻が黒く、背中にブチがある白い毛並みの去勢牛」といった具合に実に具体的な見たままの様子を名前にする。牛の毛色には70ほども種類があるし、白黒二色だけでも模様パターンが15もある。それらのすべてを飼い主は把握している。この風習は動物そのもの、家畜そのもの種の名前をつけるときも同じだった。さらに子どもたちの名前も、満一歳のときに特定の色と模様で銘銘される。これを「モラレ」と言う。
例えば「ルッチグナ」という男の子の名前には、「アリの去勢牛」という意味があって、アリ=黒い牛のそれも去勢されたのを飼っているモラレの血を引くという意味になる。しかも自分のモラレを背負った牛が死ぬと、近隣の村を襲い他部族をひとり殺してしまう。これを「ルファ」と呼ぶ。まことに迷惑な殺人である。牛が死ねばあだ討ち、家族が死んでもやはりあだ討ちするのだが、もちろん仇を打たれたほうにはなにも心当たりなどあろうはずもない。
極めて他民族への排他性が強烈で、また自己のアイデンティティに異常なほどの執着がある部族である。そのすべての基礎に色彩と模様こそが一族の証明という自覚がある。

インディアンも似たような銘銘をする。例えば「朝日に向かってこぶしをあげて立つ女」とか「オオカミとダンスする男」とかいう具合である。これは映画「ダンス・ウイズ・ウルブス」で知った。


日本人は年末になると紅白歌合戦を見る。
この紅白の対立は女男を示していることは言うまでもない。
しかしこれが運動会で使われると男女には関係がなくなる。
なぜなら運動会を男対女で行うことに、さすがに無理があることを知っていたからに他ならない。
大きな学校に見に行ったことがある。そこでは学校を四つに分けて、赤青黄白のチームができていた。
紅白の基本形に足された色は青と黄色だった。実にカラフルだった。カラフルという感覚は少なくとも三色以上の色の組み合わせから生じる。すると料理に使われる場合も、この三色から四色の組み合わせが一番食欲を誘うことに気がつく。その色とはやはり赤、緑、黄色、あるいは茶色である。
あなたが三色団子をうまそうに思う、その最大の要因も実は色彩にある。そうでなければあなたはいつも茶団子を選んでいるはずだ。え?そりゃ論点が違う・・・。ああ、あんたはさては茶団子が大好物だな?

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