■AMS放射性炭素年代測定法
Accelerator Mass Spectrometry の略。
意味は加速器による質量分析
考古学の場合、この「質量」とは放射性炭素14C(以後C14と表記)の含有率を指す。
C14が、有機質遺物(炭化米や土など)そのもの、あるいは無機質遺物(土器など)に付着した有機物から検出され、その含有量は年代に比例していることから、海外ではほぼ信頼性の高い測定法として、多くの考古学者や歴史学者が認知している。

■信頼度が低かった時代
「遺跡や遺物の年代は本来は一つであり、固定するのが望ましいが、揺れ動く場合も珍しくない。最近では、弥生時代の始まりに関する実年代や、本書(『先史日本を復元する4 稲作伝来』岩波書店 2005)で中心をなす縄文晩期および弥生前期の想定時間がずいぶんと動きを見せ始めている。ご存知のように、開発の進んだAMS法(省略)による炭素年代の発表で、実年代に関する新説が登場し、その評価も避けてはとおれない」(同書巻末「補遺 弥生時代の実年代をめぐって」 森岡秀人)

※2005年の段階で、AMS法や年輪年代法は同書の巻末に「追補事項」としてわずかに解説があるばかりである。
ちょっと前までは追補解説すらない本が多く、放射性炭素分析そのものが弥生時代のような短期間の年代特定には不向きというのが、学者たちの見方であった。海外でのエジプト文明や日本の先土器・縄文のように長いスパンの遺物分析には有効だろうが、まだまだはじきだす年代に+-誤差があり過ぎ、信頼できないとされてきた。

■しかしAMS法の場合、その数値精度が非常に高い。
まず年輪年代法での測定年代と常に一致した数値を出す。
誤差が少ない。
使用する対象物は、これまで炭化米のプラントオパールであったのが、土器にふきこぼれたいわゆる「おねば」やカマ底のオコゲといった「こなれた遺物」から検出できる。つまりほんのわずかな量でも解析可能。

AD1950年を起点とし、C14の半減期を568年と決める。その後のキャブレーション・カーブ(暦年較正曲線)を描き出すことで暦年代を推定する。単位はBPで表される。c14が少ないほど遺物は古いモノと考えられる。国際的にはINTCAL98(較正暦年calB.C.)を適用する。

■分析された弥生時代の例証
日本の弥生時代つまり稲作開始を決めた例証は、すべて北部九州の遺跡が対象である。
これは稲作が最も早く届いた地域だからという、恣意的だが、どうしてもそこへ偏ってしまう傾向にある。

●福岡県福岡市雀居(ささい)遺跡
板付Ⅰ式土器付着物から紀元前830~750年の数値(これまでの相対編年では紀元前300~400)。
その差、400~500年、I式の開始はさかのぼる。

●佐賀県唐津市梅白(うめしろ)遺跡
●福岡市早良区橋本一丁田(はしもといっちょうだ)遺跡
夜臼Ⅱa及びⅡb式土器付着炭化物から紀元前900~750年の間で、なんと95%の確立で確定可能。
ここからは東北の大洞C2式土器も同時出土しているので、この遠隔地土器の実年代もほぼ確定できた。
●韓国漁隠(ぎょいん)遺跡
紀元前8~9世紀

これらの測定値は朝鮮半島南部の無文土器時代の開始、東北地方の縄文時代晩期の年代ともよく合致している。
この年代は中国では西周時代にあてはまることになる。
春秋戦国時代より前に、北部九州ではすでに弥生人がいて、稲作、米食が定着していたことが明確になった。
これは筆者の「同時代年表」では、東北に亀ヶ岡式土器が出現し、中国製青銅刀が出土した頃、沖縄では明刀銭が伝わったとされた時代の少しあとに相当する。列島の東西にすでに中国との交流があった証拠品が出る、その時代、本土九州などがもう中国と交流し、もしくは大陸人を受け入れていたという空想は、数値によって見事に証明されたこととなる。
同時代年表→http://www.oct-net.ne.jp/~hatahata/doujidainenpyou.html
年表のこの部分は考古学者・松木氏の年代観を使用している。

あの暦博グループのひとりである春成秀爾でさえも、
「弥生時代の始まりである夜臼Ⅰ式期は、紀元前10世紀までさかのぼらせる可能性も含めて考えるべき」だと言わせしめた。

西周初期は殷末期と交叉した時代である。今後の発掘とその分析数値しだいでは、北部九州の弥生早期が殷文明と同時代に繰り上がる可能性さえ出てきたのである。また個人的に言えば、北部九州以外の土地(南九州や日本海や、最古の稲が出た吉備)の数値もさかのぼらせる遺物が出るかも知れないと期待している。そのとき又、学者たちは声をそろえて「そんなあほな!」と言うのだろうか?
実に楽しみだ。^皿^

■これまでの弥生年代観の変遷一覧
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■まだ全幅の信頼を学者が置いていない。そして自説を見失っている時代。
「しかし、こうした新しい年代観が考古学・歴史学の分野で全幅の信頼を得て承認されるまでには、今しばらくの時間を必要とするだろう。年代観の違いを種類の異なる船でたとえるなら、船を乗り換える人がどのくらい増えるのかが問題となる。多くの研究者は、こと弥生時代について、東アジア史の視点からその像を描いてきたが、そうした歴史叙述の方向性に再検討を迫り、定説を一気に見失わせる事態を招いていると言っても過言ではない。」(森岡)

上の弥生時代の年代観の推移とAMS法による年代観の比較図を見れば、森岡は1998年の段階で、まだ一般の教科書と大差のない年代観を持った「常識的学者」である。彼にとっては著作にC14やAMS法について言及しただけでもかなりの勇気がいることなのだろう。ちと???がつく上のコメントではある。

以前も書いたが、古い年代観にとって都合がよければ炭素測定年代を大声で使い、都合が悪ければ「あり得ない」とする、ご都合主義の学者も多い中で、しかし森岡の意見は、日本の考古学の旧態然ぶりを知る上で非常に貴重な良識ある慎重派だといえる。
AMS法を否定するためには、その測定値の完全な狂いの例証を山ほどあげる必要がある。ゆえに否定も肯定も微妙である。まだAMSの精度を超える分析方法が見出されていないからだ。現時点では正しい数値をはじき出したのは間違いがないが、それを判定するのは私たち人間だと森岡は言うのである。その意見の可否についても論議はあることだろう。今言えることは、教科書が書いてきた常識的な、編年法から導かれた、相対的な、そして主観的なこれまでの年代観は「間違いだった」ということである。だからと言ってANS法の数値が絶対かと言えば、それは無理な相談だ。もっと古くなる手法が出てくる可能性が未来にはあるからだ。


■鉄器開始年代も繰上げ?
弥生時代前期末から中期初頭に繰り上げる意見もすでに出ている。

これはあくまで2005年の段階での中堅的学者の一意見である。
学者にも世代交代があり、われわれ好事家にも世代交代がある。
中には、歴史が大好きと公言するファンの中には、年代観などまったく無頓着に、むしろ妄想や推量ばかりで意見を言うやからもいて、それでもっとバカな人々を騙し、小説的世界を開陳して、金をもうけているものも一部ある。そっちのほうがもうかり、生きていける世の中をマスコミが作り出し、学問の世界を侵食し、穢してもいる。

■消えてゆく年輪年代法?
後継者は?
木造建造物からだけでは、石器時代はどうするのか?
AMS法がもっと精度と信頼度を勝ち取ると、年輪法は消滅してしまう可能性がある。
相対編年法の将来は?
科学はある選択をしたとき、非常に非情な一面を見せる。
なにを信じるかは時間が教えてくれるだろう。
科学は分科し過ぎの時代を終え、これからは新しい組み合わせを模索する時代になった。
ありとあらゆる手法が出尽くすと、人はそれらの組み合わせに眼がいくようになる。
今から30年前、広告業界がそうだった。新しい手法を出しつくし、広告マンたちはそれらの組み合わせとクロスオーバーに奔走しはじめた。まったく斬新な着想は出なくなり、人も科学も行き詰った。私たちが暮らしてきた80年代から現代までは、本当の斬新な概念はなにも生まれていないのである。新しいとあなたが感じているその商品も、みな古い何かから改善され、便利化され、なにかを組み合わせて作られたものばかりである。テレビ、電灯、洗濯機、冷蔵庫、電車、汽車、ダイオード、原子爆弾のような、それまでどこにもなかった概念などひとつもない。歴史学におけるAMS法や年輪年代法は、稀有な誕生物。

新しい着想は後世まで語り継がれて歴史の一部となるだろう。そういう意味で、光谷拓実も歴史学上の立志伝の中に書きとめられるだろう。

■弥生時代の始まりは稲作の始まり
では、いったい誰がそれを持ち込んだのか?それが倭人なのか?それとも先住していた縄文人と混血した人々が倭人なのか?

そして亀ヶ岡や三内丸山の「うずまき」を描く縄文人たちはどこへ消えたのか?
次回は、世界に渦巻きを追いかける。ドーバー海峡を渡った渦巻き。


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