■門田誠一(もんた・せいいち)1959年大阪生まれ。同志社大学修士卒。『はんこと日本人』『海でむすばれた人々』佛教大学(助)教授。
門田 「渡来」の実態に近づくのは難しいですね。文献に顕著に現れる「渡来系」と、考古学的な朝鮮半島や中国系の遺物の有無の吟味が、ようやく最近進んできた。
森 文献では渡来系の人が住んだかどうかわからない石川県小松市で、オンドルの遺構が数多く見つかった例もある。文献だけでなく考古学からの渡来文化の追求は面白そうです。ところで渡来系の大豪族の秦氏は京都が拠点ですが、出自を中国とする説と、新羅とする説があり、○×式にどちらが正しいと言い切れない。秦氏の先祖伝承では、中国から朝鮮半島に渡り、繁栄してから日本に来たという。『隋書』百済伝にも、百済に住む中国人の記述がある。逆に、中国に朝鮮半島出身の人もいる。
門田 唐代には高句麗出身の将軍もいて、西アジアに遠征していますね。
森 複雑さをわきまえて考えないと。日本だけ純粋な土地で、渡来人が外から渡ってくる、という単純な理解ではいけない。京都の特徴として、海の向こうに限らず南九州や出雲、越(北陸)、関東など日本列島の遠隔地からも人が来ている。僕はこれが、京都の文化が上手に育まれた原因だと思うのです。それを渡来の問題と一緒に考えるとおもしろい。
門田 奈良時代以降の文献に出る渡来人系氏族には、政治主張が入っていると思います。秦氏の渡来伝承で『日本書紀』応神天皇十四年、弓月君が百済から「帰化」した記事があり、率いた民は加羅に足止めされたという。何かの意図で朝鮮半島南部の三地域を入れたに違いない。
森 渡来人を考える場合、日本の統一の度合いの問題と非常に深く関わってきます。戦後すぐの頃、ヤマト政権が列島の隅々まで支配していたとの思いがあったが、とても無理です。大宝律令ができたころ、日本列島には律令制に組み込まれていない土地があちこちにあった。平安前期、山梨や長野にいた高句麗系の人が、日本の文化になじんだので日本風の名前に変えたいと申し出た記事がある。渡ってきて百年ほどは高句麗人として滞在していた。
門田 平城京で出土した七百六十二年の木簡に「木(もくら)」の名が見え、これは『隋書』百済伝に出てくる百済の八大姓の一つですが、百済は六百六十三年に滅亡している。日本に亡命した後、百年も百済の姓を名乗り続けた。
森 『新撰姓氏録』の記述から「五畿内に渡来人が多い」との研究があり、三分の一くらいが渡来系だという。『新撰姓氏録』はそもそも五畿内のことしか書いておらず、他も多かったでしょう。
門田 『新撰姓氏録』は、平安時代の氏族の系譜自慢の際、立場を有利にする性質の書物でもありました。本当の系譜なのかは疑問だとの研究もある。高句麗の王族は扶余の出自と名乗りますが、扶余と高句麗の墓の造り方はまったく違う。王族ですから出自を有利なように言う。『新撰姓氏録』についても氏族の系譜の解体、検証が必要ですね。
森 狛氏や韓国氏のように中国か朝鮮から来たような名前なのに「先祖が高句麗などへ派遣されたからついた」という氏もかなりいる。(中略)
→出典 森浩一対談集『京都学ことはじめ』
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ま、古代に限らず士族、武士の出自伝承は嘘八百くらいに思うべし。
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