九州の古墳に描かれる装飾にはあまり知られていないけれど、ひとつ重大な法則がある。
それは直孤文を描かれた古墳には、そのほかの絵柄が同時には描かれないというものだ。

このことは少なくとも装飾古墳氏族には大きく複数の氏族があったと考えられることになる。

直孤文は彫刻で壁画ではない。まずここに大きな分類が可能である。かといってほかの線刻壁画とも違うのは、線刻古墳の絵柄はつたなく不明瞭なのに対して、直孤文は絵柄自体が洗練され、ほかのどの絵柄よりもはるかに格上の人物だったことが想定される。線刻壁画の被葬者はあきらかに部民の親方程度のクラスであるが、直孤文の氏族は中央の倭王とも非常に近しい人物であろう。例えば鴨籠古墳の直孤文や石人山の直孤文はそれぞれ葦北国造親族、筑紫国造親族のものとされている。


              石人山家型石棺

壁画で描かれた氏族にも、いくつかの特徴的な絵柄で分類が可能である。
赤い円文をメインにした古墳は浮羽郡、朝倉郡、日田市、玖珠町に多いがこれは「うきは」=「いくは」=「いくはの臣(的臣)のものと考えられる。いくはとは文字では弓矢の的、音からは「生葉」となるから、豊前地域で線刻壁画に多用される木の葉を描かれた一族の支配者だろう。この「生葉文」には上向き下向きの二種があり、これも意味合いはそれぞれ諸説あるが、上向きが再生、下向きが再生拒否ではないかと自分はひそかに見ている。
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         浮羽町 日ノ岡古墳
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         豊前地域の生葉文(下向き)
          
靫と弓矢を多用する氏族、馬、馬具を多用する氏族、三角、波、船、鋸歯文(きょしもん=サメの歯型)を多用する氏族なども多い。それぞれ靫負大伴配下の氏族、渡来系為政者氏族、海人系氏族であろうかと見える。これらの壁画を持つ氏族はみな倭五王に帰順した先住氏族と見てもよかろう。またヤマトタケルに景行天皇が預けたとされるヒイラギ型の馬具杏葉を持っていた王塚古墳では、もうすべての絵柄が石室全体を飾っており、筑前と豊前の境である筑豊地区のど真ん中に造営され(麻生前首相の持っている土地である)、尋常ならぬ王族の墓と思われている。自分はここがヤマトタケル、あるいは中央の景行天皇一族の派遣した誰かの墓だと考えている。これは今後、景行・ヤマトタケル・成務天皇・仲哀天皇一族の九州筑豊王家のあったところ説へとなるのかどうか?
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                王塚古墳

すると直孤文だけは九州では若干浮いた氏族だったという結論になる。
中でも厳重に直孤文を石室全体に貼り付けられ、おまけにその石室を赤い石だけで作られたのが井寺古墳の被葬者である。このような様式はほかに見当たらない。そもそも阿蘇ピンク石は中央で多用された石材で、地元九州ではほとんど見つからない。井寺古墳は阿蘇ピンク石産地にほど近い場所にあって、葦北国造家にも近い場所に埋葬された。おそらく葦北国造自身、あるいは筑紫国造に匹敵する実力者だったはず。
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                井寺古墳

これまで書かなかったが直孤文装飾の一番の特色は、中央の孤文が持っている永遠性・・・孤文を横並びに展開し、終わりなき絵柄としてこれを円形に渦巻くようにまるめるような意味がある孤文円盤へと発展してきた。その装飾そのものを四角い枠の中に切り貼りしたものだということである。そして最大の特色がそのコラージュの中央に大胆に×印を刻んでいること。

この直線的な×印になっていった前身としては吉備楯築型円筒埴輪にある孤文の真横にある交差する渦巻きがある。


          楯築遺跡円筒埴輪孤文

その直後の最古クラス古墳である紫金山古墳ゴホウラ貝輪の直孤文では、中央ではなくいくつもの×直線が入れ込まれている。ここまではそれほど孤文を切ったという印象派薄く、それらの×がそのまま被葬者の再生否定とは言えない。
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           大阪紫金山古墳貝輪

中央に×された遺物は岡山県千足古墳の小さなもの、それにそっくりな奈良県葛城地方の大室古墳の大型靫の形をした楯遺物がある。この二人だけが古い時代に×をど真ん中に刻印されている。このことは雄略大王が吉備王家と葛城氏を滅ぼしたことっとなにかリンクしていると見ることができそうである。


           千足古墳直孤文

その後、直孤文は地方氏族の有力古墳被葬者に使用されるが、やがてまったく消えてしまう。ほとんど倭五王が飛鳥に切り替わる時代以降、まったく見えなくなるのである。

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