諸国怪談集『御伽物語』(1680年刊行・俳人荻田安静収集 この古書は『里見八犬伝』の著者である滝沢馬琴の蔵書から発見されたものである)

「よく知られた話だが、ある家に飼われていた白犬が、その家の娘が小便するたびに掃除せよ、この娘はお前の嫁ぞと言い聞かされて(もちろん主人の冗談だったのだが)喜んで用をつとめていた。さて娘が成人後、縁談が起こるたびに白犬はその仲人に噛みついて、娘を嫁がせないばかりか、深く思い詰めている様子が誰にもあきらかであった。親は困って卜者を呼んだが、その卦にも犬の執心が現れる。
”お前の嫁ぞ”と冗談を言った言葉の咎(とが)は、一度は添わせなければ晴れるモノではないと示され、親は泣く泣く娘を白犬に嫁がせる。
ところが娘は嘆くことなく、山中深い家に犬と夫婦となって住む。犬が狐・狸・兎などを獲り、娘が市中でそれを売って見過ぎとした。ある日、ひとりの山伏がこの山を通りかかって、女の美貌に驚き、聞けば夫は白犬だと言うではないか。これほどの美女を犬の嫁とはもったいないと、山伏はひそかに白犬を殺して土中に埋め、数日して何食わぬ顔で娘を訪ね、白犬が戻らないと嘆く娘をなだめすかし、自分の妻にしてしまう。長年の間に子どもも七人できた。もういいだろうとある夜、山伏は妻に、あの白犬は実は自分が殺したとうちあける。女は深く恨んで、ついに山伏を殺してしまった。だから七人の子を成すとも女に心を許すなと世間では言うのである。」

この話の類型は中国最南部の海南島型と言える。日本でこの手の話の類型は主に西日本に集中し、東日本にも延びているが、その主な分布は奄美大島から長崎、佐賀、対馬、四国中国地方を経て関西が圧倒的に多く残されている。

コメント
最後のオチはいかにも男尊女卑だった頃の九州南部地方の儒教観がかいま見えるが、今となってはちと余分な分別くささを感じる。引用されるならこの部分は割愛されることをお勧めしたい。
筆者は伝承のまま書き込んだ。