大山誠一も書いていることだが、日本の天皇というものはそもそも藤原不比等がはじめ、藤原氏を光り輝かせるための存在から開始されているようである。

その前の蘇我飛鳥王朝までは「天皇」もいなければ、皇室もない。蘇我大王家こそが大王だったのである。この時点では天皇を頂点とする皇室、王国など微塵も存在していないのだ。

第一、日本の大王も皇室も、そもそも絶対君主ではない。氏族が錦の御旗にするための傀儡でしかない。自らの手で神武や応神やのように実権を持った王など現実の古代日本には存在しないのだ。そういう意味で皇室というものは、飛鳥の蘇我王家とも倭五王とも女王卑弥呼とも、まったく質が違うのである。

天皇は持統からでいいだろう。今の皇室も持統直系はまず間違いない。
その持統の前に大王家に多大な影響力を持っていたのが、実は息長広媛の系譜である。




天智も天武もこの息長系皇族なのだ。だからこと皇室だけに限るならば今の天皇家も息長系だと言うことができる。しかし息長氏は蘇我・藤原のようには氏族が繁栄していない。滋賀県の東北部に伊吹山があるが、その麓が彼等の本拠地である。そしてそこにはこれといって大きな古墳も見あたらず、たいした遺物も出ていない。ただ、伊吹山は越えれば不破関があり、そこから尾張へと抜けられる、要するに東国への交通の要所である。

息長氏の強いところは不破関と東国氏族、そして琵琶湖を使う日本海への交通路を持っていることだった。継体時代には琵琶湖とは百済へゆくための主要路だったからだ。継体が大和や、出身地である紀ノ川下流域よりも淀川を選ぶ理由も、琵琶湖経由百済の航路を牛耳るためである。この航路こそは畿内から、筑紫を通らずに半島へゆく「日本海航路」である。つまりここで初めて良港宍道湖は重要になる。ということは筑紫がそれまで牛耳っていた海外交易に、畿内王権は初めて別ルートを見つけられたわけである。それまでの奈良盆地ではこうした経路は切り開けなかった。ということは出雲侵略はこのときが最も現実味があることになる。

息長氏はしかし貿易の氏族であって、政治には疎かったようだ。経済を牛耳ったので、その後も近江は商人の町として大いに栄えてゆく。息長氏は営々と天皇を輩出してゆくけれど、結局政治に参入できなかった。『日本書紀』に神功皇后・武内宿禰・アメノヒボコという系列の渡来神を挿入させるのがせいぜいである。それは息長氏そのものが渡来系だったからののだろう。政治は藤原氏のものだった。

息長氏の系譜は渡来人・アメノヒボコとの血族化に始まり、山背地方の南部に大筒木王系譜を残している。継体の淀川沿線や山背・木津地方とのえにしもここから生まれてくる。木津には有名な椿井大塚古墳も存在する。京田辺あたりまでは息長氏の拠点だったと言える。

不比等死後、仲麻呂も広嗣もメインには出られない。頼みは光明皇后ただひとりなのである。ところがところが平城遷都のあと、橘氏も静かになり、政権のメインにはなぜか再び藤原氏が台頭する。ひとえに光明皇后と遺臣たちが長屋王の血脈を寸断したおかげではなかろうか?

『日本書紀』はこうして完成後も、さまざまに改ざんされていった。
『日本書紀』の大半は蘇我王家から簒奪した新王朝・・・つまり藤原政権の正当性のために描かれている。悲しいかな、天皇家のために書かれたものではないようなのだ。

ならば飛鳥時代以前、倭五王以前は、つまりどうでもよかったのである。まずは大和のためだけの私的な象徴王家が天皇家であり、伊勢神宮も天皇の私的な祭祀のためにあり、藤原氏にとってはどうでもよかった。ただ、伊勢は東国への入り口にあって、アマテラスが皇祖の神であることを証明するためのワンダーランドであればそれでよかった。藤原氏にとって重要なのはあくまでも春日大社・鹿島神宮でしかない。
伊勢神宮はアマテラスという皇室の先祖神が巫女となって、物部氏や古い大和の氏族の神である大物主という祟り神を押さえつけてくれればよかった。宇佐神宮はもっと古い王家だった河内王朝ややられた筑紫王家、のちには南九州の隼人たちが祟らぬように宇佐に押し込んだだけである。そしてそれらの神社はやはりあくまでも物部氏の鎮魂のためにあったのだろう。

日本はこうして不比等によって形を与えられた。それは論理的な形である。だから日本国には最初から形式しかなく、すべては藤原氏と『日本書紀』の整合性のために存在してきたのである。そう1300年間。だから今、真の政治が行える政治家がこの国にはいまだにいないのであろう。




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