少しく鬼について書きたい。


「『今昔物語集』の中に、関東から来たおのぼりさんがやはり瀬田の唐橋で鬼に出会う話がある。壬申の乱がそうだったように、瀬田の唐橋は当時、東国と西国・・・言い換えると蛮族の世界と天孫の国をわかつ「境」の場所だったのだろうと思われる。」
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『今昔物語』
東国従リ上ル人、鬼ニ値フ語第十四
今昔、東ノ方ヨリ上ケル人、勢田ノ橋ヲ渡テ来ケル程ニ、日暮ニケレバ、人ノ家ヲ借テ宿
ラムト為ルニ、其ノ辺ニ、人モ住マヌ大キナル家有ケリ。万ノ所皆荒テ、人住タル気無シ。
何事ニ依テ人住マズト云フ事ヲバ知ラネドモ、馬ヨリ下テ皆此ニ宿ヌ。従者共ハ下ナル
所ニ馬ナド繋テ居ヌ。主ハ上ナル所ニ皮ナド敷テ、只独リ臥タリケルニ、旅ニテ此ク人離レタル所
ナレバ、寝ズシテ有ケルニ、夜打深更ル程ニ、火ヲ髴ニ灯シタリケルニ、見レバ、本ヨリ傍ニ大キナル鞍
櫃ノ様ナル物ノ有ケルガ、人モ寄ラヌニ、コホロト鳴テ蓋ノ開ケレバ、怪ト思テ、「此ハ若シ此ニ
鬼ノ有ケレバ人モ住マザリケルヲ、知ラズシテ宿ニケルニヤ」ト怖シクテ、逃ナムト思フ心付ヌ。然気無クテ見レバ、
其ノ蓋細目ニ開タリケレバ、漸ク広ク開ク様ニ見エケレバ、「此レハ定メテ鬼也ケリト」思テ、「忽ニ忽ギ

逃テ行カバ、追テ捕ヘラレナム。然レバ只然気無クテ逃ゲム」ト思得テ云ク、「馬共ノ不審キ、
見ム」ト云テ起ヌ。然レバ、蜜ニ馬ニ鞍取テ置ツレバ、這乗テ鞭ヲ打テ逃グル時ニ、鞍櫃ノ
蓋ヲカサト開テ出ル者有リ。極テ怖シ気ナル音ヲ挙テ、「己ハ何コマデ罷ラムト為ルヲ。
我レ此ニ有トハ知ラザリツルカ」ト云テ、追テ来クル。馬ヲ馳テ逃ル程ニ、見返テ見レドモ、夜ナレバ
其ノ体ハ見エズ。只大キヤカナル者ノ、云ハム方無ク怖シ気也。此ク逃ル程ニ、勢田ノ橋ニ
懸ヌ。逃ゲ得ベキ様思エザリケレバ、馬ヨリ踊下テ、馬ヲバ棄テ橋ノ下面ノ柱ノ許ニ隠居ヌ。
「観音、助ケ給ヘ」ト念ジテ、曲リ居タル程ニ、鬼来ヌ。橋ノ上ニシテ極テ怖シ気ナル音ヲ
挙テ、「河侍、々々」ト度々呼ケレバ、「極ク隠得タリ」ト思テ居タル下ニ、「候フ」ト答ヘテ出来ル
者有リ。其モ闇ケレバ、何物トモ見エズ。


東国からやってきた山だしの男、勢田の橋付近であばら屋に泊まった。夜更け、ほのかに灯した明かりのもと、そばにあった大きな鞍櫃のごときもの、「ごとり」と音を立てた。これは鬼が出たに相違なかろうと男は馬に乗って逃げ出そうと起き上がった。すると櫃をがさりと開けてその中から声がする。

「おまえはどこへ逃げるつもりか?わ¥しがここにいることを知らなかったのか」

男は馬に飛び乗り駆け出すが、どうにも後ろからついてくるモノがある。
勢田橋まで逃げたが、追っ手はどんどん迫ってくる。仕方なく馬を捨て、橋げたの影に身を隠す。
鬼はなにやら恐ろしげな音をたてて「河侍!河侍!」と呼び立てる。
すると男の隠れている橋の下から「暗くて何も見えないぞ」と答える声がする。

修正 男の隠れている橋の下の川の中から、「ここにおるぞ!」と答える声がしたが、眼下は暗くて何者がいるのかまるで見えなかった。

話はここで途切れている。それが怖い。
男が隠れている橋の下、そのさらに下の川の中に、なにかがいる。

なにものかがいる、そのなんとも言われぬ存在が恐ろしい。

河侍とは「河はいるか?」ともとれるし、「かわざむらい」という妖怪がいるようにもとれる。つまり読み手の想像力にまかせた書き方である。

それゆえになおのこと恐怖感が引き立つ。

ほら、そこに隠れてはだめだ。眼下の河には魔物がいるぞ!
おそらくぬらぬらてらてらとした何かの正体を描き出さずに知りきれトンボなところがなおのこと怖い。




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