考古学では、一般的にではあるが、巨大古墳の被葬者とは、その時代に財力も知名度も持ちえた大王・豪族の墓であると自動的に考えてしまう傾向にある。
 
あるいは被葬者の腕に、山ほどの腕輪がはめられていた場合、これでは農業には従事できない、つまりその地域で特別な存在・・・腕輪を必要とする巫者ではないかと、これも自動的に考えてしまうようになっている。
 
 
しかし、民族学の見方では、例えば英国のジプシーたちは全員が、その墓地で最大の巨石を使った墓に入れられるし、ガーナのある地域では、村人全員が、裕福なもの、村長とおなじ格好をさせられて埋葬される。
 
アメリカのネブラスカ州の先住民の墓性をきめ細やかに調査した考古学者・オシェイは、先住民たちのどのような地位の人がどのような墓に埋葬されたかを解明したあげくに、結論としてこう言っている。
 
「首長・庶民の社会階層の相違は埋葬の差異として、確かに現れやすいが、同一階層内での社会的地位の違いは、埋葬の差異として考古学的に認識困難である」
 
 
 
 
 
福岡県の金隈遺跡で夭折幼児がゴホウラガイの腕輪を山ほどつけて甕棺から出たとき、当時の考古学は、先に書いたように、これは庶民ではなく、力仕事などしない為政者、巫王の子供であろうと決めてかかろうとした。しかし民俗学的に考えると、この子は、死してはじめて、腕輪で身を飾られただけだったのかも知れないのである。縄文時代から、夭折幼児は特別な埋葬をされてきた。特別さには物資と観念の二種類があるのだ。
 
 
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墓の巨大さは、副葬品に比例しない例が多々ある。
 
副葬品の華麗さや、装飾の壮大さが、必ずしも、その人そのものの当時の身分をあらわさない例もある。崇峻大王も、穴穂部皇子も、例えば藤ノ木古墳のように、兄弟二人いれこになった状態で石棺から出てきたりする。これは記録上から、政敵とされたからだとなるわけである。だがそれとて、確かにそうだったなどと考古学に決定する権利はないのである。
 
 
 
 
佐賀県三津永田遺跡や山口県土居ヶ浜遺跡からは、あきらかに前後の時代人とは、体格の違う遺骨が200体以上も見つかった。
 
縄文時代の人よりも背が高く、しかも古墳時代の人よりも背が高かった。前後世代と彼らが明確に違うことがわかって、はじめて、彼らは大陸からの渡来人だと判別できることになった。
 
 
また伊都国があっただろう福岡県志摩町の新町遺跡の支石墓から出た遺骨は、縄文人の体格をしていた。支石墓=渡来人ではないのである。それは縄文と弥生の、この地域での融合と血縁が生まれていたことすら想定させる。
 
 
また、マヤの遺跡から出る遺骨のうち、ピラミッド(太陽の神殿)などから出た人骨と、そうでない場所の人骨とでは、身長の差が7センチもあった。それで貴族層は栄養価の高い食事をし続けたからこの落差が生じたとされた。これもしかし推測でしかない。つまり為政者が民衆と異なる人種であったり、背の高い人を選んで紙へのいけにえとした可能性なども考えねばならない。
 
 
 
考古学は推測しかない科学であり、こうした推定論理に基本的に実験は不可能な学問である。現在進行形の事実でもなく、まして人類の異伝など何世代もかかってしまう。そもそも歴史学のすべては推測である。しかしより完全な推測、ほぼ確定と誰もが認めざるを得ない結論のために、データを収集しつづけねばならない。
 
 
 
遺伝子学では、ちょっと前まで、日本人はバイカル湖に至ったステップロード経由の新モンゴロイド形質をほとんど受けた人であり、南方系形質はわずかしか残らなかったと結論されたかのような騒ぎであった。しかし、そのとき筆者はまだサンプルが足りないとここに書き、現在は、古モンゴロイドの系譜にまで視線が及び、九州縄文人はこれであり、それが渡来との融合で、淘汰された遺伝子となった、ことがほぼわかってきた。サンプルが増えたからである。
 
そしてこれこそが不思議なことだが、人口も遺伝子も大多数を占めたはずの渡来系日本人たちは、その文化も言葉も住まいも衣食住も、なぜか縄文からのそのままのものを愛用、受け継いできたのである。
 
 
今、言われていることは、必ず修正されてゆく。「こうだったのだ」など、歴史学にも考古学にもない。
 
 
考古学や遺伝子学、つまり科学には、多大なサンプルが多大な影響を持つのである。論考はつねに過渡期であるということなのだ。
 
だから民族学を馬鹿にしているあいだは、本当の歴史は見えるはずがない。
もちろんほかの山ほどある戦術もちゃんと勉強しなくてはならない。あなたが全部学ばなくとも、あなたの次の世代はそれをついで、つないでゆく。ぼくたちは、まだ何も知らないただのひとつの点なのだ。
 
 
 
参考 『はじめて学ぶ考古学』
 
 
 
 

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