東大中世史学の保立道久がこの秋、「ブックガイドシリーズ 基本の30冊」で『日本史学』を著した。人文書院。2015年9月。





目次だけ拾い上げるとこうなっていた。



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中世史にかぎらず、広く通史に渡った内容になっているので、古代史ファン、先史時代ファンにも役に立つ。




触発されてKawakatuも、久しぶりの復帰記事として、Kawakatuがお勧めする枕元に置いておきたい古代学必須の基本の30冊をピックアップしてみた。これだけは読んでおきたい古代学基本の30冊である。著作者ひとり一冊に限定したので、物足りないかもしれない。基本的に文献史学の従来的な主観的・文学部的分析にだけ頼って書かれた書物は割愛してある。森博達は史学だが客観的科学としての言語学・音韻学での分析ゆえに拾った。文献史学による分析は、いま、氾濫してきた「遺伝子学」、「年縞分析」、「環境考古学」などの科学的な分析の前で、その行く道を見失いはじめており、参考にするべき客観性が感じられないからである。記録が正しいという前提では今後、いかなる古代史研究も信頼性がなくなっていくのだろう。文学の論考のほとんどに、やはり客観性あふれる論理性が見られないように、文系史学の言動に目からうろこをはがされることは少なくなった。それは客観的分析を追及して書物を選んでいけば当然の結果である。「なぜ」を徹底的に追求する本を市井のしろうとも待ち焦がれているのである。


あくまでも、筆者が個人的にいつでも読み返したい本。
読んで青天の霹靂の天啓をもらえた本である。



○歴史の読み方の基礎を知るための本

1森浩一『敗者の古代史』中経出版・ちくま 2013年6月
 ※考古学者が見つめた記紀記録の登場人物の人間としての行動学の視点。人間の歴史、政治力学の基本を教えられる。

2津田左右吉 津田左右吉全集『日本古典の研究』 1948
 ※津田理論が左翼的であるとの過去の論評は戦中の右翼的思想の植えつけた刷り込みであった。津田の言っているのはあくまでも現代史学の平等・客観的な視線からの戦中皇国史観への冷静・客観的なアイロニーと批判であり、むしろ自由主義的である。あの右よりだった時代にこれが書けた勇気に賞賛。そしてその後長きに渡った津田史学への誤解を知るために、右の人々にも是非もう一回読み返して欲しい本。

3喜田貞吉 磯川全次編 『先住民と差別』喜田貞吉歴史民俗学傑作選 河出書房新社 2008
 ※明治人のシンプル・明快でえぐるような歴史の深遠への視線。



○古代人の死生観を知る

4辰巳和弘 『他界へ翔る船 「黄泉の国」の考古学』新泉社 2011
 ※古代人のデザインの源泉を、一方では民俗学的・精神分析で、一方で客観的科学性で見事に分析。特に直弧文と貝輪が縄文後期~弥生~古墳までの共通死生観をつなぐミッシングリングであることを考古学から証明。
 
5谷川健一 『賤民の異神と芸能 山人・浮浪人・非人』 河出書房新社 2009

6網野善彦『網野善彦著作集 芸能・身分・女性』『同 日本社会の歴史』
 ※古代~江戸期までを通観する網野史学の傑作

7田中史生 『越境の古代史 ―倭と日本をめぐるアジアンネットワーク』 筑摩新書
 ※歴史を知るには国境も県境も越え、さらに意識の壁すら越える必要を解く。

8飯尾恭之『サンカ・廻游する職能民たち 尾張サンカの研究』批評社 

9山本ひろ子『異神 中世日本の秘教的世界 上・下』 ちくま学芸文庫 2003
 ※能楽の裏に隠された「闇のうしろ戸」を覗く

10萩原秀三郎 『鬼の復権』 吉川弘文館歴史文化ライブラリー172 2004

11中沢新一  『精霊の王』 講談社   2003

12舟田詠子『誰も知らないクリスマス』 朝日新聞社 1999
 ※西欧・北欧におけるケルト民俗信仰がローマのキリスト教に飲み込まれる歴史を知る。

13林俊雄『興亡の世界史 スキタイと匈奴 遊牧の文明』講談社 2007
 ※東北縄文人のルーツはスキタイか?




○必須資料

14乙益重隆・小田富士雄他執筆『古代史発掘⑧装飾古墳と模様』 講談社 昭和49

15小林行雄編『装飾古墳』 藤本四八撮影 平凡社 1964  

16森本六爾・小林行雄共同編集 『弥生式土器聚成図録』正編 東京考古学会、1938-1939年
 ※弥生文化が北九州に始まって東に波及する状況などが明らかになった。
  小林の光の部分を知る良書。闇の部分はあわせて『舟葬論再論――「死者の舟」   の表象――岡本東三』を読まれたし。

17窪田蔵郎 『鉄のシルクロード 』雄山閣 2002
 ※製鉄の世界史
18石野博信編『増補新版 大和・纏向遺跡』 学生社 2008

19森博達 『日本書紀 成立の真実 - 書き換えの主導者は誰か』 中央公論社 2011
 ※決め付け的部分も多いが、画期的な『日本書紀』分類法。反論も併せて読まないと、これがたったひとつの解答だと信じてしまうので注意。反論として井上亘 「『日本書紀』の謎は解けたか」大山誠一編『日本書紀の謎と聖徳太子』所収。

20白川静  『漢字』 岩波新書 1970
 ※漢字を知って東アジアは見えてくる。



○通史の中の古代人
21松木武彦 『日本の歴史 1 列島創世記 』 小学館 2007
 ※縄文~弥生の移行の肝をヘテラルキーからヒエラルキーという思想史学用語で明快に喝破した。

22青木和夫 『日本の歴史5古代豪族』 小学館 1973
 ※天武朝氏族を知るための貴重な資料が横溢。あわせて『奈良の都』も。

23佐原真『佐原真の仕事』
 ※考古学とは何かを知るための本
24寺沢 薫  学術文庫『日本の歴史02 王権誕生』 講談社 2008
 ※森浩一の愛弟子が違う視点で。
25石母田正『中世的世界の形成』岩波新書 1985




○理化学
26佐藤洋一郎『<三内丸山遺跡>植物の世界 DNA考古学の視点から』 裳華房 2004
27中橋孝博『倭人への道 人骨の謎を追って』吉川弘文館 2015
 ※篠田のミトコンドリアDNAではわからなかった核DNA分析こそが次代の本命。
28ネリー・ナウマン『生の緒』※神話学基本中の基本
29安田喜憲 『環境考古学のすすめ』丸善ライブラリー 2001年
 ※「年縞」の名付け親が語る環境考古学。
30秋元信夫『石にこめた縄文人の祈り 大湯環状列石』新泉社 2005


ひとつ追加させてもらうと、「老子」を忘れていた。