最新ゲノム分析用語の基礎知識1
遺伝子サーフィン

現生人類はアフリカから広がったのちにユーラシアへ、さらには地球上の南極を除くほぼすべての地域に入植していったが、実は新たな地域へ急速に拡散するというプロセスそのものに、有害な遺伝子影響を及ぼしうる可能性が高いことも最近明らかになっている。

例えば、拡散前の集団内でまれだった有害な遺伝子的変異体が、拡散が終わったときには集団内で極めて一般的にみられるようになっていることがある。このプロセスが「遺伝子サーフィン」である。

dcbddd41.jpg

ユージン・E・ハリス『ゲノム革命 ーーヒト起源の真実ーー』より




図の上から下にいくにつれて、集団が→の方向に拡大。
一番上の図では拡大しつつある集団の波頭で新たな変異体(灰色●)が生まれている。
低頻度の変異体が波頭に出現すると、すでに占められている地域に住む大きい集団(黒●)の中で出現する場合に比べてサーフィンにより最前線である一番若い子孫の集団に高い頻度で変異体が広まる可能性が高い。

簡単な例を挙げるなら、被爆したことで突然変異した遺伝子ゲノムがその場を避けて移動した場合、先祖集団よりもその何代かあとになる子孫ほど顕著に現れる可能性が高い・・・などだろうか?(要分析データ)


この理由は、集団が新しい地域へ広がるとき、その前進の波の先端に位置する人々の数は以前より少なくなる。それだけその人々のゲノムに存在するDNA変異体はより強いランダムな遺伝子的浮動を受けるからだ。波の先端では遺伝子浮動が強くなるため負の選択は存在しうる有害な変異体を効果的に摘み取ることができなくなる。

これで過去広まった可能性がある病気は、鉄成分過剰蓄積症=ヘモクロマトーシスや、肺の中に濃い粘膜が分泌される嚢胞性線維症などがある。


参考文献 ハリス『ゲノム革命』


参考になりそうな文献
著者:HALLATSCHEK Oskar (Lyman Lab. of Physics, Harvard Univ., 17 Oxford Street, Cambridge, MA 02138, USA)、NELSON David R. (Lyman Lab. of Physics, Harvard Univ., 17 Oxford Street, Cambridge, MA 02138, USA)
資料名:Theor Popul Biol 巻:73 号:1 ページ:158-170
発行年:2008年02月



おまけ
前回書いた、「遺伝子多様性はアフリカから離れるほど減ってゆく」の画像資料

ed945a19.jpg


現生人類の集団がアフリカから移動し拡散してゆくにつれて、連続創始者効果によってDNAの多様性が徐々に失われていった。ローマ字は変異体、数字はその数。

つまり変異体そのもののバラエティは移住すればするほどその数を減らす。すると今度は最先端に到達した集団内での有害変異体は、より顕著に出現しやすくなる。危険頻度、突然変異発生数は減るが、ものによっては危険濃度は濃くなるという実にやっかいなことが生じるらしい。

創始者効果(そうししゃこうか、founder effect)とは、「隔離された個体群が新しく作られるときに、新個体群の個体数が少ない場合、元になった個体群とは異なった遺伝子頻度の個体群が出来ること」を指す。生態学集団遺伝学の用語。始祖効果(しそこうか)、入植者効果(にゅうしょくしゃこうか)とも呼ぶことがある。


関連



余談
言語や文化に創始者効果やサーフィン現象が起こるならば、モーゼとか卑弥呼など、絶対突然変異のおかしな奴が集中的に現れた人間となるかもね。