ブードゥー 英: Voodoo、仏: Vaudou、海: Vodou
原語は現在のダナンに17世紀頃からあったダホメ王国の「精霊」「神々」というフォン語のヴォドゥン(Vodun)。カリブ、南米、北米へはハイチへの奴隷売買で広がった。だからブードゥーの故郷は西アフリカ一帯である。



●ヴォドゥンの創世記

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ザンベト。ワラで着飾った来訪神が村の霊的守護となる儀式。


アフリカのほとんどの部族は、精霊と大地母信仰を持つが、フォン人は天空・雲・大地と言う三つの神域(ヴォドゥン)がある。

創造母(ナナ・ブルク)を持っている。それは天空に住んでおり、そこで双子の神々を造ったという。昼と力、そして忍耐を司る太陽神リサと、その妹で夜、平和、歓喜、豊穣、母性、雨を司るマウの双子がそれである。リサとマウは長子サグバダとその妹である双子を産み、大地へ遣わされた。(ここまで『魔術の人類史』から編集)

やがて・・・
「月食や日食、つまりどちらかが相手方や他の天体の陰に隠れた時に、会って子をもうけた。
マウとリサは7組の双子、つまり14の神々の母と父となった。
地の神、嵐の神、鉄の神がまず生まれた。

ある日、マウとリサは子供たちを呼び集め、双子たちに治めるべき土地を与えた。
最初の双子は、地を治めるように言われた。
次の双子は空にとどまり雷と稲光を治めるように言われた。
三番目の双子、両親の力である鉄の神たちは、森を平らにして土地を整えるように言われた。また、二人は人間に道具や武器を与えるように言われた。
別の双子は、海に住んですべての海域とすべての魚を統率するように言われた。
他の双子たちは、やぶの生えた土地の鳥や獣を支配し、すべての場所の木々の世話をするように言われた。
他の双子たちは天と地の間をまかされた。また、人が生きる時間の長さを決めるように言われた。

そして、マウは双子たちに自分のところにやってきて、この世でおこるすべてを知らせるように言った。
 マウとリサは、子供たちの姿が人間に見られないようにした。それで、空や、嵐や、稲光が神であると信じる人がいる。これらの神々は、月と太陽であるマウとリサのゆえに存在する。」
https://nomindchains.wordpress.com/2013/07/15/105-%E9%80%A0%E7%89%A9%E4%B8%BB%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%81%A8%E3%83%AA%E3%82%B5%EF%BC%88%E3%83%99%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E4%BA%BA%EF%BC%89/

しかし・・・
雷鳴と稲妻を統べる弟ソグボは、しかし与えられた権勢だけにあまんじることをよしとはしなかった。大地を統べる長兄を妬(ねた)み、雨を引き上げてしまった。以来、作物が育たず民は飢えて苦しむこととなった。

たみびとの苦しみを見たマウは、リサとの間の末息子・運命神レガを地上へつかわす。そのレガは鳴鳥オトゥトゥを連れていたが、それは炎が立ち上るとすぐ鳴くよう命令されていた。それで雷神ソグボが怒りおののいて雷を落とし、火を放ってもオトゥトゥがすぐ知らせ、マウが雨を降らせるので大地は救われた。(『魔術の人類史』)


※姉妹が母神であるというのはアボリジニのワワラグ姉妹に似ているが、精霊だから女同士でも子供ができるというのもシュール。兄弟同士でもできてしまう。雌雄同体の精霊である。

※末の息子と雷神はまるでスサノヲであるし、夜と昼の神と言うのも日本神話に近い。おそらくこういう神話が原初にアフリカに生まれて、拡散した結果なのだろう。

※大地母、創生母の名前「ナナ」は広く欧州でも
アッティス Attisの処女母(virgin mother)で、ノルウェーのナンナ、アナトリアのアンナ、シュメールのイナンナと系統を同じくする。アドーニスの処女母(virgin mother)ミュラーのように、ナナも女神が化身した巫女であった。古代のウルク(イラク南部)では、ナナの名は」を意味した。同じ名が、ダオメ(アフリカ西部)の女神にも使われた。ダオメでは最初の男と女はナナ-ブルク(-太陽)から生まれたという[1]。」http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/nana.html
とある。フォン人のナナが派生元とは言えまい。シュメールが最古か。ただ語源が月であることは民俗誌では重要だろう。また母音が二つ並ぶ語なので、ママと同じ幼児語由来かも知れず歴史が古い言葉だと思える。



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カパメに集う正装した信者たち。
カパメは秘儀を執り行う秘所で、囲われている。トーゴのロメにて




●ヴードゥー 


ボシオ。先祖であるフォン人の偶像。


このようなフォン人の信仰ヴォドゥンは、連行されたハイチやキューバやブラジルでヴードゥーと呼ばれるようになった。もともと西アフリカにいた人々の大半がそのようにカリブ諸島や南米に移住させられた結果、ヴォドゥンだけでなく、それまで彼らがそれぞれ信奉してきたダホメやロアンゴ、アシャンティ、ヨルバ、マンディンゴといった文化もハイチへ散らばっていった。それらすべてが奴隷制度下で融合して独自のものになったのがヴードゥーである。

その特色は、
祖霊崇拝
精霊憑依
歌舞
太鼓のリズム

などが収斂する西アフリカ部族集合意識から形象化された霊的信仰=スピリチュアル・クリエイションなのである。呪い。災いややっかいごとを、憑依やのろいやダンスと歌でうっちゃる=解決するという止揚行為。

今日のハイチのヴードゥーは、カトリックキリスト教や中世ケルト地域(アイルランドやスコットランド、フランスの一部)由来のドルイド信仰などと融合し、ボンディエ(クレオールした語でキリスト教)の神の儀式を取り込んで拝火教的蝋燭儀式や、動物生贄まで加わっている。半分はキリスト教神秘主義であると言っても過言ではない。



ヴォードゥー・フェティッシュ。呪物。ロメの市場でおおらかに売られている動物の頭骨や頭部


信仰の基本は、
1、人間は精霊から命を吹き込まれた物質としての肉体を持っている。

2、ゆえにそこに宿る神性やロアの境地に至ることができる。

3、ロアは肉体に入り込むと、顫動や痙攣を引き起こしつつ、その者が持つ二つの魂の片方であるグロ・ボナンジェ(大柄な善き天使)の魂と入れ替わる(憑依)。もうひとつの魂は小柄な天使という。

こうして精霊はその地上の宿主にのり移り、自由にこれを手繰れるようになる。

かなりキリスト教的な宇宙観の影響が見られる。




次回
中央アフリカのアザンデ族の使う妖術=マング(mangu)を扱う。
ブードゥーよりもマニアックである。